水道水汚染事故から私たちは何を学ぶか

 

本年517日、埼玉県企業局が浄水から水道水質基準を超えるホルムアルデヒドを検出したため、利根川および江戸川流域の水道事業体では取水停止の措置をとった。なかでも、正確迅速な対応ができなかった千葉県内では、519日に5市(36万戸、87万人)で断水や減水に追い込まれる事態となった。

この水質汚染事故の特徴は汚染物質であるホルムアルデヒドが、原水である河川水中から明瞭に検出できず、そのため原因物質と排出源の特定に時間を要してしまった点にある。

524日に厚生労働省と環境省は今回の汚染事故の原因となったホルムアルデヒドは、その前駆物質であるヘキサメチレンテトラミン(ここではヘキサミンと記述)が河川水中に流入し、それが浄水プロセスの塩素と反応してホルムアルデヒドを発生させたと発表した。
●ホルムアルデヒドはどうやって検出されたか?
 
ホルムアルデヒドはメチルアルコールが酸化してできる簡単な構造の物質で、いろいろな合成樹脂の材料としても広く使われている。大変便利な物質だが、体内にはいるとDNAを損傷することや発ガン性が認められており、わが国のPRTR制度では昨年度から特定第一種指定化学物質として登録されているものである。

この特定第一種指定化学物質とはダイオキシン類、ベンゼン、ヒ素などと同じように人に対する発ガン性等があると評価されているものである。当然、このホルムアルデヒドには水道水質基準値が設けられており、水道法では1Lあたり0.08mg以下とされている。

今回の事故で埼玉県企業局が浄水後の水道水から最初にホルムアルデヒドを検出したときの濃度は0.168mgL5172145分)と報告されている。

ホルムアルデヒド自体は刺激臭の強い物質だが、水道水質基準値レベルの濃度では刺激臭もしないので、日常的な官能試験では発見できず、定期的に実施される水質試験分析でなければ検出することはできない。つまり、今回の事故では埼玉県企業局が定期水質検査を行うまで、ホルムアルデヒドがいつから、どの程度、水道水中に入ってしまっていたかは実はわからなかったと言うことになる。

したがって、「この程度なら大丈夫」とか「水道水を飲んでガンになったらどうする」というどちらも意見も今のところ根拠はないのである。
 しかも、たまたま定期試験分析で検出されたからよかったが、試験分析担当者などいない中小の水道事業者にとって見れば、今回の問題は見逃せない重大問題でもある。というのは、わが国の上水道は一般に浄水過程で塩素消毒を行っており、原水中に塩素と反応して有害物質を産生させるものがあれば、それは全国レベルの大問題なのである。 

●なぜこんな事になったの?

浄水場でホルムアルデヒドを産み出してしまった原因はヘキサミンであると報告されており、これを河川に放流した企業も特定されているが、ヘキサミンの自然界への排出については法規制がないため、水質汚濁防止法や水道法では現時点では処罰対象にならないといわれている。

一方で、ヘキサミン自体もPRTR制度では第一種指定化学物質に登録された有害化学物質であり、そこから産み出されるホルムアルデヒドも人の健康に重大な影響与える物質となっているのである。

今回の事故の直接の原因はヘキサミンを排出した企業にあることは当然であるが、有害化学物質が自然界へ排出された際に及ぼす環境影響を広く検討していなかったことも、事態を大きくしてしまった原因であることも間違いない。

●有害化学物質による汚染にもっと目を向けよう

今回の事故について「ホルムアルデヒドを産生する要因は多すぎて規制は無理」とか「藻類からもホルムアルデヒドは生まれる」といった意見もあるが、健康被害の未然防止と今日の科学技術の到達レベルという視点から見れば、問題解決を目指した見解ではない。
 水道水に限って言えば、水道水質基準があるのだから、その基準値を守るために浄水プロセスで有害な有機化合物を産生する物質を洗い出し、一方で少なくともPRTR制度で登録が義務づけられている有害化学物質との関係をチェックして法的規制の検討に乗り出すことが、今回の事故の教訓を生かす道であろう。

これらの動きを促進して法的規制をすすめるためにも、私たちは有害化学物質による汚染が生活の隅々に潜んでいることに、もっと目を向けていく必要がある。


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